Category Archives: 研究

7/20-7/26は、ドイツのチュービンゲン大学で共同研究でした。今回は特に7/21-23に、チュービンゲン大学のSummer School 2014に講師&受講生として参加しました。3日間と短期間でしたが、朝から夕方までみっちりとプログラムが組んであり、充実した内容でした。

テーマは、”The 3/11 Earthquake, Fukushima and Minna no Hon’yaku – A computer aided translation platform fulfilling needs of the civil society”(3.11 地震、福島、みんなの翻訳―市民社会のニーズを満たすコンピュータ翻訳支援プラットフォーム)ということで、震災後の報道や情報伝達をめぐる社会的・メディア的な事例報告がある一方で、具体的な実習を交えた翻訳の技術的側面にもかなり踏み込む構成になっていました。

 

私は講師としては、2日目の日本語イディオム(慣用表現)の異形検索ルールの作成用プラットフォームQRidiom 1の説明を担当しました。サマースクールのテーマに照らすと、翻訳技術寄りのテーマで、しかもイディオムの柔軟な検索というかなり限定技術的な話だったので、どうまとめようか悩みましたが、とにかく実例をたくさん出しながら、まずは興味を持ってもらうことを重視しました(この時、イディオム単体を例に挙げるよりも、イディオムが実際に使われている文全体を示すことがキモです)。

特に、翻訳支援の技術要素としてだけでなく、日本語学習者が「遊びながらイディオムを学ぶ」プラットフォームとしての意義を強調したかったのですが、ここはあまりうまくいかなかったかもしれません。参加者から「これは私たち(日本語学習者)がやるべきことなのか」という率直な質問を受けたように、プラットフォームのターゲット層と、それに応じたユーザインタフェースのあり方については、再考が必要です。

翻訳者/学習者の側から見た時、イディオムの理解・処理というのは、言語学習における無視できない(そして後回しにされがちな)課題であるのは確かでしょう。実際に、通常レベルの日本語会話ができるドイツの学生も、講義中に例に出した17のイディオムのうち、4つしか知らないと言っていました。4つも知っていたというべきかもしれませんが、日本語母語話者だったらおそらく全て分かるレベルのイディオムだったので、イディオムの学習は第二言語習得における1つの課題であることが示唆されます。また熟練翻訳家でも、時にとんでもない誤訳につながるイディオムの見落としをやってしまうことがあるそうです(特にイディオムが「イディオムっぽくない」時に起こりやすいとか)。

一方、流通する文書・テキストの側から見た時、イディオムの多寡は、文書・テキストのクラスと一定の相関関係にあることが指摘できます。すなわち、政府文書や白書などの「フォーマル」なテキストにはイディオムはほとんど出現しませんが、新聞・雑誌・ブログ・SNSといった「それほどフォーマルではない〜インフォーマル」なテキストには出現しやすい傾向があります(ここはちゃんと比較検証はしていませんが、多分正しいでしょう)。また、とりわけブログ・SNSといった「話し言葉」に近いテキストにはイディオム異形が出やすいことについては、BCCWJとGoogle検索を比較しながら、ある程度検証しています 2

震災以後、政府をはじめとした「公式の」情報が圧倒的に不足している中で 3、ブログやSNSといったインフォーマルな媒体を頼らざるを得ない時、少なからぬ割合でイディオムに遭遇する可能性が高いということは、やはりあらかじめ想定しておかなければなりません。
翻訳すべきテキストのクラスとそれに応じた言語表現の幅の画定は、翻訳の技術的支援を考える上では欠かせないポイントでしょう。

 

さて、今回も研究とは別に、チュービンゲンで合気道の稽古に参加させていただきました。すごく当たり前ですが、「自分の道場スタイルをなるべく持ち込まない(その道場のやり方を真似る)」ことと「自分から倒れるといった誤魔化しはしない(技が効いたら身体が反応するだけ)」ことが、他の道場での稽古を楽しむコツなのかもしれません。

いつも飛び入り参加な上、車で迎えに来ていただいたり、道着まで借りたりと、迷惑をかけっぱなしです。「日本の稽古(技)のやり方もぜひ紹介して欲しい」と依頼され、恩は稽古でお返しできれば・・・ということで、30分程度見取り稽古をやらせてもらいました。お互いに見慣れない技に、頭と身体をひねらせつつ 4、技を教え合うのは非常に刺激になります。楽しんでもらえたでしょうか・・・。

また、稽古の後は、ドイツ(チュービンゲン)での合気道の稽古事情とかも伺うことができました。日本(特に東京)にいると当然のように考えがちですが、日常的に師範クラスの先生方の稽古を(受けようと思えば)受けられるという環境は、非常に羨ましいようです。恵まれた環境に感謝しつつ、日本での夏の稽古に励みたいです(もちろん研究も)。

 

あとそういえば、ドイツの学生の方と、ミュージカル(特に『エリザベート』)の話ができたのが楽しかったです。日独の台詞(翻訳)の違いだけでなく、演出の違いや、歌のハマり具合などなど・・・キリがなくなりそうなので、このくらいで。。

 

 

Notes:

    • Koichi Takeuchi, Ulrich Apel, Rei Miyata, Wolfgang Fanderl, Ryo Murayama, Iris Vogel, Ryoko Adachi, Kyo Kageura, A Simple Platform for Defining Idiom Variation Matching Rules, Proceedings of the XVI EURALEX Internatinal Congress: The User in Focus, Bolzano/Bozen, Italy, pp.399-404, 2014.
    • 竹内孔一, 白石貴大 , Ulrich Apel, 宮田玲, 足立諒子, Wolfgang Fanderl, 村山遼, Iris Vogel, 影浦峡, 簡単なイディオム異形規則の作成: プラットフォームと日本語の異形規則, 言語処理学会第20回年次大会, 北海道, pp.488-491, 2014. [pdf]

    • Rei Miyata, Ryoko Adachi, Ulrich Apel, Iris Vogel, Wolfgang Fanderl, Ryo Murayama, Koichi Takeuchi, Kyo Kageura, The Use of Corpus Evidence and Human Introspection to Create Idiom Variations, the Second Asia Pacific Corpus Linguistics Conference (APCLC 2014) , Hong Kong, 2014

  1. このような情報流通の社会的側面についても、サマースクールの初日に興味深い報告がありました。
  2. とはいっても全く身体の使い方が異なるわけではなく、やはりベースとなる部分では共通するものがあるような気がします。
Top